Interview
世界のつながりを科学する
-未来をつくるネットワーク研究からのメッセージ-
京都大学大学院 総合生存学館 総合生存学専攻 教授
池田 裕一 先生
世界中の「人」「モノ」「お金」の流れを見える化
私は京都大学で「ネットワーク社会研究会」を主宰し、世界の“つながり”を科学する研究をしています。みなさんは、毎日の生活の中で、食べ物やスマートフォン、電気などがどこから来ているか考えたことがありますか?これらはすべて、世界中の「人」「モノ」「お金」の流れによって成り立っています。私たちは、こうしたグローバルな“つながり”の構造を「ネットワーク科学」と「データサイエンス」で解き明かし、世界の課題に立ち向かっています。
私の研究は,大きく3つの柱で成り立っています。1つ目は、「複雑ネットワーク解析」です。世界のサプライチェーン(モノの流れ)や金融取引、移民の流れなどを、数学やコンピュータを使って“見える化”し、社会のつながりや孤立を分析しています。これによって、国際的なリスク(例えば戦争や災害で流通が止まるような事態)を未然に察知できる仕組みづくりに取り組んでいます。2つ目は、「経済・金融の異常検出」です。例えば、ビットコインなどの暗号資産市場で不自然な動きが起きたときに、数学的なモデルで “異変の兆候”を捉えられるようにする研究です。これにより、投資の安全性や市場の健全性を守ることができます。3つ目は、「ブロックチェーン技術の応用」です。例えば、太陽光などの再生可能エネルギーを地域内でやりとりできる分散型エネルギー取引のプラットフォームを開発し、またカーボンクレジットや国際送金を安全・効率的に行うための新しい仕組みをつくっています。
社会全体を“巨大な実験装置”とみなす
私の原点は「物理学」です。大学では原子核物理学と高エネルギー物理学の研究に没頭し、アメリカのブルックヘブン国立研究所で、宇宙誕生直後の状態を再現する実験に参加していました。でもあるとき、「この宇宙の仕組みだけでなく、社会の仕組みも物理学で解き明かせないか?」という想いが強くなったのです。その後、民間企業での研究や国際機関での経験を経て再び大学に戻り、社会全体を“巨大な実験装置”とみなして世界の仕組みを科学的に理解しようという挑戦を始めました。社会のネットワークは、まさに宇宙のように複雑で面白いのです。
未来を創るための“知の冒険”
私の研究の最大の魅力は、「つながりの力で世界をより良くできる」という実感です。例えば、戦争や災害で物資が滞ったとき、その背景にはどんなネットワーク構造の脆弱性があったのか、数理的に説明できます。そしてそれを乗り越えるための仕組みを提案することで、実際に社会を変えることができます。さらに、研究を通じて世界中の仲間と協力できることも魅力です。現在、イギリス、スイス、オーストリアなどの研究者と共同研究を行い、ネットワーク科学の知見を国際的に活かしています。そして何より、学生と一緒に社会課題を発見し、仮説を立て、データを分析し、成果を発信するプロセスは、未来を創るための“知の冒険”そのものです。
池田先生からのメッセージ
高校で学ぶ数学、物理、経済、英語…これらはすべて、今の私の研究に欠かせない道具です。特に数学は、ネットワークの構造を分析する基礎であり、世界を理解する“言語”のようなものです。また、言語や歴史など人文系の知識も重要です。なぜなら、数字だけでなく、 “人の想い”や“文化の違い”を理解することが、グローバルな課題解決には不可欠だからです。大学受験の勉強は、単なる通過点ではありません。自分の興味を深め、世界を多角的に見るための「レンズ」を磨く時間だと思って取り組んでほしいです。
みなさんがこれから進む道は、決して一本道ではありません。科学の世界も社会の世界も、無数の“つながり”でできています。だからこそ、みなさん自身の「好き」や「なぜ?」という気持ちを大切にしてください。それが必ず未来の研究や仕事につながります。たとえ困難なことがあっても、「世界をもっと良くしたい」「誰かの役に立ちたい」という気持ちがあれば学びは生きた力になります。みなさんがこれから出会う仲間や先生、学問との出会いが、きっとあなた自身を大きく成長させてくれます。世界は変えられます。ぜひ、自分らしい “問い”をもって未来をつくる旅に出てください。京都大学で、そして世界のどこかで、みなさんと一緒に研究できる日を楽しみにしています。
京都大学大学院 総合生存学館
https://www.gsais.kyoto-u.ac.jp/
京都大学 ブロックチェーン研究センター
https://www.blockchainkyoto.org/










